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第4話 その恋愛観、本当に大丈夫ですか?

last update publish date: 2026-06-10 15:30:48

「私ってそんな尻軽な女に見える?」

四阿ガゼボに戻ったウェルシェの愚痴にカミラは首を傾げた。

「いきなりどうなさったのです?」

「さっきエーリック様が仰っていたでしょ?」

お茶を注ぎながらカミラは、ああと得心がいった。

「お嬢様が他の男に心移りするかもってやつですか?」

それよそれとウェルシェは不満そうに口を尖らせた。そういう幼い振る舞いは年相応に可愛いなとカミラは思う。

「婚約者がいながら他の殿方になびくほど、私は不義理な女じゃないわ」

「恋愛は義理人情ではありませんよ?」

 思いのほか男女の機微にうとい主人をカミラは意外に思った。

「猫を被ったお嬢様は理想の令嬢なのですから」

ウェルシェの容姿は控え目に言っても絶世の美少女。彼女が学園へ行けば子息達がちょっかいを掛けるのは間違いないとカミラは思っている。

「何よぉ、素の私には魅力が無いって言うの?」

「魅力はございますよ。理想ではありませんが」

一言余計よとウェルシェはぷぅっと不貞腐れる。そんな主人が可愛くて、カミラは心の中でじたばた悶えた。だが、出来る侍女は完全無表情。おくびにも態度に現わさない。

「だから、エーリック殿下が不安になる男心を分かって差し上げてください」

「ずっとエーリック様が良いって言っているのに、いったい何に不安になるのよ?」

大人さえ手玉に取る美少女もまだまだ経験不足なようだ。

カミラは色恋沙汰に疎い主人に対して苦笑いを浮かべた。

「学園には多数の殿方が集まります」

「まあ、国中の貴族子弟が通うものね」

「お嬢様が心動かされる素敵な出会いがあるかもしれません。それを殿下は心配なさっておいでなのですよ」

この男心わからないかなぁっとカミラは思うのだが、ウェルシェはいよいよぷぅっと頬を膨らませた。

「だ・か・らぁ、どんな殿方がいてもエーリック様以外はお呼びじゃないわ」

ウェルシェは利益ベネフィット理屈セオリーが最優先。ゆえに恋愛の機微がピンとこなかった。

「恋は自然と落ちるものですから」

「私は敗残者になるつもりはないわよ?」

「はぁ?」

ウェルシェの頓珍漢な返答にカミラの思考がフリーズした。

「ええっと……何のお話ですか?」

いったいいつの間に勝負の話になったのか、どんなに思い返しても思い至らずカミラは首を捻った。

「何って……恋に落ちる話じゃない?」

だが、逆にウェルシェの方が意味が分からないと小首をかしげた。が、意味不明なのはこっちの方だとカミラは主張したい。

「だって、恋は先に落ちた方が負けなんでしょ?」

「恋愛は勝ち負けではございません!」

誰が自分の愛する主人にとんでもない恋愛観を吹き込んだのか?

「でも、お母様が仰っていたわ『恋は追ったら負けよ。男に追われる女になりなさい』って!」

奥様あんたか!!)

ウェルシェは自他(他はカミラ)ともに認める腹黒令嬢なのだが、何故か母親を非常に尊崇そんすうしており教えに従順なのだ。

「結婚後も主導権を握る為に旦那様の目を自分に惹きつけられる魅力を常に磨けともご教授いただいたわ」

「確かにそう言う努力も必要ではございますが……」

「そうすれば追うのではなく追われる女勝利者になれるんですって」

(奥様は何を吹き込んでくれやがっているんですか!?)

「私もお母様の仰る通りだと思うの。ほら、お父様ってお母様に頭が上がらないじゃない?」

怒らせて「実家に帰らせていただきます」と言われて出て行こうとするウェルシェの母ママに「出て行かないでぇ!」と泣き叫んで足にすがりつくウェルシェの父パパの姿を二人は同時に想起した。

グロラッハ家はウェルシェママをヒエラルキーの頂点とする超かかあ天下なのだ。

「ぐぬぬぬぬ、あれは惚れた弱みと言うやつで」

「ほらほらぁ、惚れた側のお父様はやっぱりお母様に勝てないじゃない!」

「そうなんですけどぉ、そうじゃないんです!」

「?」

言っている意味が分からないとウェルシェはキョトンと可愛い顔をする。そんな彼女に恋愛ゲームの駆け引きと恋愛の機微と夫婦間の愛情のあり方、カミラはそれらの説明が上手くできない。

もどかしさにカミラは両の指をワキワキと戦慄わななかせた。

ウェルシェは他人の思惑を察し大人達を翻弄するほどさとい。だが、カミラはこの時になって初めて彼女が意外にも恋愛音痴という弱点があると知った。

「とにかく家の為にもエーリック様と結婚しなきゃいけないし、他の同年代の男の子なんて興味なんてないわノーサンキューよ」

「恋愛は理屈や損得ではないのですが……」

自分の主人の残念な恋愛観にカミラは一抹の不安を覚えた。

(まあ、損得勘定が先に立つお嬢様なら、エーリック殿下以外の男性に懸想けそうする心配はないですかね?)

出来る侍女でも今は取りあえず納得するしかなかったのだった。

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